ANYONE BUT ENGLAND

ユニオンジャックの行方は?

A but B = A except B

例) I’ll do anything but homework.「ホームワーク以外なら何でもするよ」

ワールドカップグループステージ、初戦はENGLAND対USA。ブリテン島ではどこもかしこもイングランドの勝利を祈って人々は試合に釘付けになったに違いない、と思いきや!スコットランド、ウェールズでは人々はアメリカの勝利・・・というよりもイングランドの苦戦に狂喜していたという。

目下イギリスNO1のテニスプレーヤーとして今年の全豪オープンでも活躍したアンディマレーは2006年、前回のフットボールワールドカップが行われた際に「どのチームを応戦するか?」と聞かれて「ABE、つまりAnyone But England. イングランド以外だよ」と答えてマレーを応援してきたイングランド人からひんしゅくを買い謝罪をするはめになった。彼はスコットランド人なのである。彼の一言でABEという言葉がイギリス内のイングランド以外の国の人々に大受け。一気に広まり、HMVは店内のバナー広告にABEを使用し、ABEと書いたTシャツを販売。警察は暴動を招きかねないとしてHMVに自粛を要請した。しかしスコットランド人のいたずら心に火をつけたこのスローガンはいたるところに出現。Tシャツの他、マグカップ、ストッキングなどにあしらわれ国際試合のアイテムとなる。

お馴染みのチョコレート、MARSバーがワールドカップ限定で包装紙にイングランドのマークをあしらいイギリスで販売したところスコットランド、ウェールズなどからまたもや不満の声が上がった。また、多くのサポーターが南アフリカへ旅立つ頃を見図らって出たスコットランドの旅行会社の広告ときたら「FLY TO LONDON, BEFORE THEY GET BACK」(ロンドンへ行こう、奴らが帰ってくる前に)大胆過ぎて笑いを誘う。約60%のスコットランド人がイギリス全土でイングランドゲームを応援すべく大々的に放送されることに温度差はあれ不快感を覚えるらしい。

2012年に行われるロンドンオリンピックには、イギリス代表として「イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド」のメンバーで代表を構成しようという案が出されたが、イングランド以外の国が反発したためイングランドチームの23歳以下が出場することになった。

イギリスとイングランドを混同している人が時々いるので確認しておくが、ブリテン島のイングランド・スコットランド・ウェールズ、そして隣のアイルランド島の北部が我々が普段あまり考えずに呼ぶところのイギリスであり、UKであり、ブリティッシュと呼ぶ人々の故郷である。イギリスの国旗はアレクサンダー・マックィーンやポールスミスを始めとしたファッションデザイナーが好んで用いるユニオンジャックだが、これはイングランド、スコットランド、アイルランドの各国の国旗が合わさったもので、ウェールズだけは初めてイギリス国旗が出来た時にはすでに併合されていたためウェールズ国旗のドラゴンは登場しない。つまり併合される時期が遅かったらユニオンジャックにドラゴンが登場していたかもしれないのだ。

イギリス、及びイングランドの国歌はGOD SAVE THE QUEENということになっているが、6番目の歌詞には「Rebellious Scots to crush」(反逆的なスコットランド人を打ち破らん)と歌が生まれた当時の敵対関係の名残があるため6番は歌われることはない。実際には各国は独自の国歌を持っており、この曲の登場場面は徐々に少なくなりつつある。

これらの国々が長い歴史の中でイングランドに対して募らせている不公平感はことにスコットランドにおいて根強いものがあり、それを紐解けば複雑極まりないのだが、元々先住民であるケルト人が後から侵入してきたアングロやサクソンなどのゲルマン人によって不当に扱われてきた歴史の一部を否定することはできないだろう。

とにもかくにもスコットランド王のジェイムズ6世がエリザベス1世から後継者として指名されイングランド王となった時点で両国間に最初のユニオンフラッグが制定され、のちにアイルランドが加わって(その後の北アイルランド紛争等については触れない)かつての敵は今日の友となったものの、スポーツや政治の場を戦場に変えてイングランドへの敵対意識を隠さない人は多い。

自国の旗と敵国の旗が重なり合って一つの旗を持つ。ナショナリティの欄にはUKと書くがイングランド人とは間違えられたくない。私達にはそんな経験が無い。国旗の重みもわからない。今回のワールドカップで日本の思いもよらぬ活躍に初めて日の丸を身につけた人も多いだろう。

俳優のショーンコネリーは強烈な独立支持派と言うが、スコットランドが独立する日はいつか訪れるのだろうか? 幾多の争いの歴史を持ちながらもナショナリズムを感じさせないその優れたデザイン性でファッションや音楽との結びつきが強いユニオンジャックのような旗は他には無い。もし変わる日が来たとしたら悲しい気がする。

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