MICHAEL FARADAY

節電の夏の夜話「マイケルファラデー」

これまでポストからゴミ箱へ直行だった「電気使用料金のお知らせ」などというものにまじまじと見入ったのはこれが初めてである。15%の節電義務をいかに達成するか。こんなにも電化製品に囲まれて暮らしていながら、電気や電力について何も知らないことに気づく。今さらながらにそのありがたみをひしひしと感じている。

琥珀が静電気を発することから生まれた、electric(電気)という言葉

electric(電気)という言葉は1600年にイギリスの科学者ウィリアム・ギルバートによって名付けられた。ラテン語で like amber(琥珀のような)という意味で、これは琥珀が静電気を発することからきている。そしてelectric, electricityという名前は1646年に初めて辞書に登場する。

数学の苦手な科学者、アインシュタインとファラデー

現在私たちが計り知れない恩恵を受けている「電気」を利用したテクノロジーは、マイケル・ファラデー(Michael Faraday)というイギリスの物理学者が「電磁誘導、磁石とコイルの性質からその変化を利用して電気を発生させる原理」を発見したことに始まる。物理学者の名前にちなんでつけられた電磁気の単位で日常的に目にすることの多い電力のワット、電圧のボルト(ボルタ)、電流のアンペア(アンペール)などに較べると専門分野で使われることが多いためか馴染みが薄いが、イギリスの旧£20紙幣を飾った人であり、アインシュタインの書斎にはファラデーの肖像画が掲げられていたという。共に「数学の苦手な科学者」であったというから驚きである。

黒船来航の20年前、ファラデーは、世界初の発電機を発明する

ファラデーは貧しい鍛冶屋の4人兄弟の3男として生まれ、生活保護を受ける一家を助けるため13歳の時に製本工場で働き始める。初等教育しか受けることのできなかった彼は読み書きも基本的な算数も独学で学んだ。早くから学問に興味を持ち、製本工場の主がファラデーに工場の片隅で製本途中の本を夢中で読みふける時間と実験の場を許してやったことも大きな助けとなって科学への好奇心を膨らませていく。20歳の時、王立研究所の高名な科学者の講演を聞きに行って自らの進むべき道を確信した彼は、講演の内容をまとめたレポートをその科学者に送る。それがきっかけで助手として働くこととなり、科学者のお共をして海外へ行く機会を得るなどするが、当時のイギリスはまだ階級制度の厳しい時代。生い立ちの貧しさを蔑む人々から不当な扱いを受け助手としての仕事は断念せざるを得なかった。しかし彼は忍耐強く自分の研究を続けて行き、1821年に電磁気運動の理論をまとめ発電の原理を解き、1831年に世界初の発電機を発明するのである。日本では黒船来港の約20年前のことである。
ファラデーの功績は上記以外にも数多くあるが、我々が身近に感じられるものと言えば、イオンや、錆びない鉄ステンレス、最近よく耳にするようになったが当時は名前さえ無かったナノ粒子存在の発見などが上げられる。

私は最後までただのマイケル・ファラデーでいたい

ファラデーが次々と研究成果を上げると科学界は彼に名誉や地位の数々を用意する。しかし、オックスフォード大学から名誉博士号を与えられるも、生涯「ナイト」の称号を辞退。王立研究所の所長職、最高位と言われるロンドン王立協会の会長職、年金でさえ辞退した。首相や国王の説得にもかかわらずである。発明をしても特許はとらない。政府から化学兵器発明の要請を受けるも道徳的理由から協力を拒む。「I must remain plain Faraday to the last.(私は最後までただのマイケル・ファラデーでありたい)」と言う彼の精神はゆるぐことなく、名誉も地位も金も拒み続けて王立研究所の屋根裏で自分の仕事だけに従事し、最後の9年をヴィクトリア女王から与えられたハンプトンコートの別宅で妻と共に過ごし一生を終えた。

ロウソクから生まれるマジックの物語

ファラデーが晩年の1825年、王立研究所主催で行なった子供向け「クリスマスレクチャー」で6つの異なるロウソクを持ち出し、科学について魅力たっぷりと語ったと言われる伝説的な講演の冒頭の言葉。
「この宇宙をまんべんなく支配するもろもろの法則のうちで、ロウソクが見せてくれる現象にかかわりを持たないものは一つも無いといって良いくらいです」 聴衆の心をわくわくさせたこの時の講演の模様は「Chemical History of A Candle/ロウソクの科学」という本に納められており、伝説的な講演としてその名を残している。
今年は停電の時のためにロウソクを常備している家庭も多いだろう。ロウソクに灯をともしてふと思いをめぐらせてみたい。節電はおろか、電磁気の全容も、それが人々の生活に何をもたらすのかもわからなかった時代。先人たちがロウソクの灯をながめながらどんなマジックを起こしたのかを・・・。

※このクリスマスレクチャーはファラデーを創始者として現在も続いており、日本では毎年前年の講演者を招いて夏に「英国科学実験講座」という名前で行なわれている。

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