RE CULTURE

修復文化

日本で1980年代後半から90年代前半に訪れた空前の異常景気、バブル経済期。当時の日本が欲したものは何から何まで新しいものばかりだった。バブルが崩壊し景気が低迷し始めた頃から、それまでは耳にしたことの無かった言葉が脚光を浴びるようになる。それが「リフォーム」であり「リストラ」である。

新しいマンションの建設ラッシュだったバブル期、あえて中古マンションや古い日本家屋を購入し、好きなように手直しをして住もうという人は今ほど多くなかったに違いないし、かっこいいことでもなかったはず。そしていったん会社に嫁いだら終身雇用を誰もが信じて疑わなかった時代でもあり、その後突然人員整理される日が来ようなどとは想像だにしなかっただろう。

さて、この景気の後退と共に登場した「リフォーム」という言葉、英語に存在はするが、日本で言う家を手直しして住むという意味では用いない。正しくはredecorate→壁紙などを変えて「改装する」であり remodel→ドアの付け替えやキッチンの位置を変えたりして「増改築する」である。renovateは古いビルや元は社宅だったり病院だったりしたところを大々的な改修工事を行い「再生」することであり、戦後初めて居住マンションの老朽化という問題を抱えた日本で近年さかんになってきている方法だ。建物は古くて当たり前、というイギリスではredecoration, remodeling, renovationは景気のいかんにかかわらず昔から繰り返されていることである。「リフォーム=reform」は改革や改善を意味する言葉であって、正しくは「reform the government=政府を改革する」などのように使う。

当時大企業が次から次へと行った「リストラ=restructure」は日本ではあたかも「解雇」と同義語になってしまったきらいがあるが、元々は「構造改革、建て直し」のことであり、その一端として解雇が行われる場合もあるということに他ならない。

このreformやremodelなどの単語の頭につく「re」はpre-fix(接頭辞)の一つ。ラテン語で<re=again>のことである。
new(新しい)→renew(更新する)、 play(演奏する)→replay(再生する)など、多くの動詞や形容詞の頭につけることで「再び何かをする」ことを意味する。
参考までに「re」以外にも多くのpre-fixがあるので少し紹介しておく。

un=not

fair(公平)→unfair(不公平)、satisfied(満足)→unsatisfied(不満足)。

dis= not, separation

「un」同様notを意味するが相対する二つの意味には距離がある。
agree(賛成)→disagree(不賛成)、obey(従う)→disobey(従わない)。

inter=between

national(国民的な)→international(国際的な)、active(活動中の)→interactive(相互作用の)。

sub=under

way(道路)→subway(地下道)、conscious (意識する)→subconscious(潜在意識の)
などなど。

もちろん「re」や「un」などで始まる全ての単語がその意味を含んでいるとは限らないので注意が必要だが、知らない単語の意味を推測するのに役立つだろう。

現在築40年以上の物件が97%、中でも100年以上の物件が約25%を占めるイギリスでは新築物件を買うという概念が無いため英語で「中古物件を買った」という言い方すら存在しない。「I bought a second-hand/used flat」とは言わない。「I bought a flat」でいいのである。新築物件を買った時に「I bought a new flat」と言うと、前のフラットから新しいフラットに買い換えたという意味合いでとられることも多い。どうやって新築物件を買ったと表現するかというと、「I bought a flat.」 これに続けて「It’s newly built.」 「It’s just been built.」 「It’s a new estate.」と説明を加える。「I am the first owner.」という言い方もある。

ブラウン政権下で300万戸の新築が公約されているとは言えイギリスの居住物件の古さはヨーロッパでもダントツだそうで、フランスはイギリスの2倍の速さで新築物件が建ち続けているとか。地震国ということを抜きにしても全てにおいて変化の著しい日本はその比ではない。古い物を修復する情熱と新しい物を作り続ける情熱の違いか。時の流れる速ささえ違うように思える。

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